Filipe Catto INTERVIEW
インタビュー・文:中原仁 通訳:服部章子
――あなたの音楽体験の出発点、歌い始めたきっかけは?
Filipe Catto(以下C) 私は音楽が身近な環境で育ちました。父がミュージシャンだったので、楽器に触れる機会もありました。音楽を始めたきっかけは、私自身の性に対する悩みがあって、アート、特に音楽が、そこから自由にしてくれる、ひとつのきっかけであったと言えます。保守的な家族の中で育った私が性について非常に苦しんでいた時に、音楽が自分を解き放ってくれた、そういう経験がありました。
――ジェンダーの認識は、あなたの音楽にも影響を与えましたか?与えたとしたら、どんなところに?
C 非常に影響がありました。ジェンダーを認識した時点で、自分はもう新たな人生に生まれ変わったと感じました。私が触れた音楽やアートが、すべてを解き放ってくれるものでした。そして現在の私は、自分のやりたいことを自由に表現できるアーティストになれたと思っています。
――あなた自身の音楽に影響を与えたブラジル、海外のミュージシャンを教えてください。
C とても大勢の人たちがいます。まず、私はポップ・カルチャーが好きで、ラジオ、ノヴェーラ(多くの挿入歌が流れるテレビの連続ドラマ)、MTVを通じていろんな音楽を聴いていました。両親が聴いていたエリス・レジーナ、マリア・ベターニア、ガル・コスタや、マリーナ・リマ、アドリアーナ・カルカニョット。MTVで最初に聴いた瞬間に大好きになったアラニス・モリセットをはじめ、PJハーヴェイ、フィオナ・アップル、トーリ・エイモスなど、90年代の女性歌手。ロックを歌う女性歌手が好きでした。ガル・コスタも私にとってはロック歌手で、作詞作曲をするようになってからの私にも、ガルは影響を与えています。
――あなたの2023年のアルバム「Belezas São Coisas Acesas Por Dentro」は、ガル・コスタのレパートリーを歌ったトリビュート・アルバムでした。このアルバムについて、最も心掛けたとこは?
C アルバムを作るきっかけになったのが、ガルが世を去った後の2023年5月、SESC(ブラジル商業連盟の芸術・文化・スポーツ等のサービス機関)からオファーを受けて行なったトリビュート・コンサートでした。ブラジル音楽のアイコンでシンボルであるガルの歌を歌うのは、とても責任重大な、大きなプロジェクトでした。そのときに私がやろうと思ったことは、ガルのレパートリーを歌うだけではなくて、ガル自身が歌っていた時代の背景や世界観といったものを表わしていきたいと考えました。アンディー・ウォホールやジャニス・ジョプリンやドアーズがいた時代です。選曲にあたっては、特に、人生を歌った歌詞の曲に注目しました。そういう歌を歌う時、歌手がオーディエンスに向かって歌うというよりも、歌の登場人物になって歌うことを心がけました。ちょうどその頃、ブラジルでは政治的な、汚職の事件が起きていたので、人々に訴えかけることも考えました。ショーが成功を収めたので、これはもう、何か記録に残さなければ、アルバムを作らなければ罪よね、みたいな話になって、アルバムを制作しました。
――ここからは日本に関することを聞いていきます。今回が初来日ですが、日本にはどんなイメージ、印象を持っていますか?
C もう感激で、日本に行くことをすごく楽しみにしています。特に私のようなインディーズの音楽家にとって、ブラジルとは地球の反対側に位置する国まで自分が行くということは、もうまさに世界征服の感覚で(笑)、すごく盛り上がっています。日本については子供の頃から、日本の漫画やアニメが大好きで、没頭して見ていました。日本の作品の洗練されたビジョンであったりジェンダーの表現に関しても、自分にあのすごくしっくりくるものがあって、鏡のようなものとして、いろいろなことをそこから教わったりもしました。ブラジル、とくにサンパウロには日系ブラジル人が大勢住んでいて、日本の文化も身近にあるものですし、ブラジルは親日国ですからね。日本が大好きです
――好きだった日本の漫画やアニメのタイトルを教えてください。
C 「聖闘士星矢」と「セーラムーン」です。
――「KYOTOPHONIE」について、どんな印象がありますか? これまでにブラジルからは、ジルベルト・ジル、シコ・セーザル、ルカス・サンタナ、ルエヂ・ルナ、シェニア・フランサが、そしてアフリカからサリフ・ケイタが出演しています。
C とても素敵なイベントだと思います。こういうアートの国際イベントは、異文化交流という意味でもすごく意味があって、ブラジルからいろいろなアーティストが参加してきたことは素晴らしいと思います。もうひとつ大事なことは、自分が日本に行ってショーをやるだけではなく、日本のアーティストと深く交流をすることに意味があると思います。今回、クラブメトロでのイベント(注:4月12日のKICK-OFF Party)に日本のミュージシャンも出演するというので、楽しみです。今回がきっかけで、この先、日本のアーティストとの関係が深くなっていくことを願っています。
――今回の「KYOTOPHONIE」ではパティ・スミスの公演もあります。彼女に対しての想いがあれば教えてください。尊敬する部分やシンパシーを感じるところはありますでしょうか?
C パティ・スミスは、ものすごく大好きです。彼女はブラジルのネイ・マトグロッソ、マリア・ベターニアと同世代で同時代を生きてきた、今も活動している、もう言葉に出来ないぐらいの存在、、、例えるなら “大魔法使い”、”大魔女”(笑)でしょうか。彼女の本も読んで、自分の生き方などに非常に影響を受けましたので、彼女が公演するイベントに自分がいるということが、もう信じられないような出来事です。
――今回の「KYOTOGRAPHIE」のテーマは”HUMANITY”です。あなたの活動も、まさにこのテーマにリンクすると思います。”HUMANITY”というテーマから、何を思いますか? あなたが音楽や活動を通して表現したいこと、伝えたいことは何でしょうか?
C 今、この世界が非常に複雑で、難しい状況があって、私たちはデリケートな時期を生きていると思っています。そんな時代の中で写真や映像は、視覚に訴えながら世界のいろいろな事を見せる表現する方法であって、そういうことを考えると、世界は非常に小さいというふうに思います。私たち音楽家も、ただショーをやるだけではなくて、人間のストーリーを伝えていくことが仕事であると思っています。例として以前、マダレレーナ・シュワルツという写真家の展示と私たちの音楽のコラボ・イベントをやったことがあります。彼女は、ブラジルの軍事政権の抑圧が激しかった70年代に、LGBTの人たちの写真も撮影、発表してきました。私が「KYOTOGRAPHIE/KYOTOPHONIE」に呼ばれたということはLGBT+であることも含む、分かりやすい存在だからと受けとめています。